話が聞けない生徒が増えている
最近、生徒の学力に関して心配なことがあります。それは説明された内容を理解する「理解力」が低い以前に、説明を「聞く力」そのものが弱くなっていることです。問題の説明どころか、「〇〇ページを開けなさい」というような単なる指示でさえ、同じことを二度、三度と言わないと通じないことがよくあります。いったい、何故そうなってしまうのでしょうか。
語彙を増やす
ひとつ考えられるのは、口で話された言葉のスピードに、脳内の処理が追いつかないということです。言語の情報を脳にインプットするには、受け取った音声の情報を、脳内で意味化する必要があります。例えば「ハシガアル」という音声情報なら、その発音や前後関係から「橋がある」「端がある」「箸がある」のどれが正解かを、瞬時に脳が判断するのです。ただ、生徒たちを見ていると、この時の判断能力が低いという印象はあまり受けません。それよりも、むしろ語彙の少なさ、つまり知っている言葉が少ないことが理解の妨げになっているように感じます。先程の例だと、「橋」や「箸」はすぐに浮かんでも、「端」は思い浮かばない、あるいは思いつくのに時間がかかって、考えているうちに話が次へと進んでしまっているのではないかと思うのです。
これを解決するためには、たくさん本を読んだり、普段から言葉遣いに気を付ける必要があるでしょう。特に周りの大人たちの使う言葉は大きな影響を与えます。例えば大人たちが感動詞の代わりに「ヤバい」ばかり言っていたら、子供も「ヤバい」しか使えなくなります。「心が動かされた」「心が震えた」「目を奪われるほど美しい」など、大人が普段から表現豊かに感情や物事を表していれば、子供も「そういう言い方があるのか」と学び、語彙はどんどん豊富になっていきます。語彙が豊かになれば、学校などで「マジ神だ」などの流行語を一時的に覚えてきたとしても、語彙力を脅かすことにはならないでしょう。「流行語を使うことで子ども同士が盛り上がり、友情が育まれていくなら大いに結構」という心の余裕もできます。
話を聞くための集中力を鍛える
もうひとつの可能性は、人の話を適当に聞き流す癖がついてしまっている、というものです。単純な指示を何度も言わないと伝わらないケースは、こちらの要因の方が大きいのではないかと思います。これは能力というより、むしろ態度の問題なので、毎日の生活の中で継続的に訓練していく必要があります。こちらの言ったことを真剣に聞くようにさせる訓練です。1つの方法としては、「指示したことは必ずさせる」ということを普段から徹底するのが有効です。例えば「汚れた服はその日のうちに洗濯かごに入れておきなさい」と子供に指示します。さらに「洗濯かごに入っていないものは洗濯しません」と宣言します。ポイントは、親が約束通りに実行することです。カバンの中から丸められた体操服が出てきても、ここで「また出していないじゃないの!」と怒ったり、「仕方ないわね」とカバンから取り出して洗ってしまったりするのは、良くありません。ここで怒ると「いつもうるさいなあ」と嫌がられるのが関の山です。また、洗濯かごに入れていないのに親が洗ってしまうと、「洗濯かごに入れなくても洗ってもらえる→親の指示は聞かなくてもよい→人の話をきちんと聞かない」ということを教えることになります。一番良い対応は「笑顔で放っておく」ことです。朝になって、体育の授業があるのに汗まみれの臭い汚い体操服を目にした子供は、そこで初めて親の指示を良く聞いていなかった自分のミスに気付くわけです。そのとき、多くの子供は怒るでしょう。「なんで洗ってくれなかったの!」。それに対して「洗濯かごに入れていなかったから」と笑顔で答えるのが、一番正しい対応です。すると「人の言うことはしっかり聞いて理解して行動しなければならない」と反省し、次から気を付けるようになるはずです。
「人の話をきちんと聞く」という基本的なことができているか否かは、学習効果や成績に対して大きな影響を与えるだけでなく、今後の人生そのものを左右するほど重要な素質であると言えるでしょう。まだ柔軟性のある今のうちに、しっかり身に付けておくべき能力だと思います。